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【neo bridge導入事例】
オンライン配信で伝統芸能が
新たなエンタテインメントへ
コロナ渦で進化した狂言
「蝸牛〜KAGYU〜」

2021年3月6日


 
公演方法:オンライン配信のみ
カテゴリー:伝統芸能
収録場所:国立能楽堂
配信:2月5日(金)19時〜
アーカイブ:2月6日(土)〜2月18日
視聴者数:945人
 
2月5日、オンライン配信だからこそ実現が可能になった新たな伝統芸能エンタテインメント狂言「蝸牛〜KAGYU〜」が電子チケット「ticket board」 にて受付、配信プラットフォーム「neo bridge」にて配信されました。
今までタブーとされてきた演出上の制約を撤廃し、国立能楽堂にて初のクロマキー撮影を敢行。VFX技術により登場する背景や群衆、小道具など演者以外の登場物をCGやアニメで表現することで視覚的体感できる、コロナ渦だからこそ生まれた画期的な公演となりました。今回、構成と演出を担当し、演者として舞台に立たれた小笠原由祠さんに公演についてお話を伺いました。
 
■ 「創造力で補え」というのは演者の傲慢
── 今回どうしてこのようなタブーと言われる演出やライブ配信などの新たなチャレンジをしようと思われたのでしょうか?
 
能、そして狂言は、世阿弥や観阿弥の650年前からほとんど変わることのない表現を継承しています。私は早くから狂言の魅力を世界に伝えたいと思い、パリを拠点として台詞をフランス語に翻訳して演じるなど、今までにない表現に取り組んできました。その結果、異なる文化の外国で高い評価を受けることができました。一方で現代の日本の「狂言の魅力が普及していない現状」を打破するにはどうすればよいのか、試行錯誤してきました。650年続く伝統芸能を受け継ぐこと自体大変なことなのですが、その伝統だけでは受け入れられないのが現状です。
そこで、演者も時代に合わせて伝える努力をすべきだと考えました。
本来、能や狂言には、大道具というものがありません。
それはちょっとしたものを舞台上に置くことで大道具に代替する「見立て」という「お約束」によって演じますが、これが初見の方には高いハードルとなるようです。その他に、「昔の言い回しなので何を言っているかよくわからない」や「笑いどころがわからない」といった感想をいただきます。そこで、観客の想像力に頼っていた世界観を、映像技術を使ってほんの少しだけ、舞台上に視覚的に再現すれば、現代のお客様にも狂言のもつ普遍的な面白さや魅力を伝えられるのではないかと考えました。
演者が演じ方を変えてしまうのはやってはいけないことです。しかしながら、初見の理解できない方に「創造力で補え」とするのは、演者の傲慢のような気がするのです。
ですので、私は今回の取り組みが能楽界のタブーに触れたとは思っていません。
お客様に面白さをわかっていただき、より狂言に親しんでいただくためのこのような取り組みはこれからも続けていくべきだと思いますし、私自身、今後も更に力を尽くしていきたいと思っています。

 
── 今回のオンライン公演で「苦労した点」と「楽しかった点」をお聞かせください
 
苦労したのは何といっても1日に連続で3回演じたことです。今回は編集の為に3回演じましたが、通常1日に同じ曲を2回でさえ演じることはありません。特に「蝸牛」の山伏のように、舞台上で大きな動きのある曲は、1回でヘトヘトになるほど体力を消耗します。最初と2回目は通しでの撮影でしたので、2回目はかなりきつかったです。
楽しかったのは、何といっても最初にCGとの合成映像を見た時です。とにかく驚きました!国立能楽堂の鏡板の松の色が徐々に褪せていき深山幽谷を水墨画で表現した山伏の世界観が舞台上に現れた時は本当に感動しました。

 
■ 視聴のハードルを下げ新たなファン層を広げる
── オンライン配信は双方向のやり取りができるのも特徴のひとつですが、チャットでの解説で直接視聴者と繋がって会話するのは、いかがでしたでしょうか?
 
自分の演技を見ながら解説するというのは今までやったことがない取り組みで、上手くやれるか心配でしたが、おそらく優しいお客様が多かったのでしょうか、私のつたないチャットにも温かい反応を頂き、映像、音声とも十分なクオリティで拝見でき、楽しく過ごしました。
実際の公演では「直会」というものがあります。公演終了後の打ち上げパーティーのようなもので、関係者だけでなく観客の皆様にも参加いただくのですが、この催しが演者にとって色々な意見を拝聴する機会にもなっていました。昨今の情勢下もあり、公演後の直会は自粛していたため、今回のように直接お話ができる機会というのは本当にありがたいと思いました。機会があれば、今後もこのような形で皆様と繋がることができればと思っています。

 
── オンライン配信は、国内外問わず狂言に興味をお持ちで無かった新たな層にリーチできると思いますが、いかがでしょうか?また今後も今回のような公演を考えてますでしょうか?
 
単なるオンライン配信ではなく、今回の取組のように視聴のハードルを下げ、むしろ新たな芸能、新たなエンタテインメントを創造する意気込みで取り組まなければならないと思います。その意味で、今回の取組は大変意義深いものがありました。実際にチャットでも「友人に誘われて初めて狂言を見たけど、面白かった」という意見も頂けました。今回のような活動をもっと広げていくことができれば、新たなファン層を広げていく可能性が充分にあると確信しています。
大切なのは、今回のような素晴らしい取り組みを1回で終わらせるのではなく、続けることだと思います。今回は「蝸牛」でしたが、「蚊相撲」「茸(くさびら)」さらに、狂言の曲目の中で最多の演者が登場する「唐人相撲」もCGなどと組み合わせて映像化すると、面白い世界観をお見せできるに違いないと思います。次回作にも積極的に取り組んでいきたいと思っています。

 
■ 知恵を出し合うことでチャレンジする機会がうまれる
── 最後にファンの皆様へメッセージをお願いします。
 
私たち能楽師は、舞台に上がって何ぼ、という世界に生きています。そして舞台には多くのお客様に来場いただいているというのが前提です。昨年から私たちは、コロナによってその根底が覆されかねないような状況におかれ、大げさに言えば芸能者として、表現者としてこれからどのように生きればいいのかという根本的な問題に向き合うことになりました。
しかしながら、皆が集まり知恵を出し合うことで、今までできなかったことや今までにないことにチャレンジする機会が生まれたのも事実です。今回オンライン公演という初めての経験で、ネットの先に私たちの作品を見ていただいている視聴者が確実にいることが実感でき、これからの公演の在り方を考える上で非常に大きなヒントを頂きました。
 
このピンチをチャンスにかえて、今後もこのような活動を続け、作品を作り続けていこうと思っておりますので、ぜひご期待いただきたいと思います。